相場のサイクル 日柄と言う難題 手稿2題

索 引(ページ内)
  1. 負債の返済と執念
  2. 未完の手法

負債の返済と執念

柴田の言う科学的とは統計的と言う意味であると思えますし、機械式と言うものは裁量を排したと言うような意味と思えますが、私が「柴田秋豊」に興味を持ったのは、この「裁量を完全に排除したロジックを見つける」と言う執念の部分でした。

もちろん統計を用いて後に膨大な資料を検証して導いたと言っても、現在のわれわれが手に入れてパソコンで分析できる資料から見ればわずかなものであり、またそれは現在のようなグローバルな視点で見れば非常に意味偏った資料と言えますが、その偏った資料をすべてであるかのように信じていたと言う点も含めて、合理性を強く意識しながら多くの矛盾と非合理を秘めると言う、如何にも日本人の罫線家らしい姿勢と、如何にも人間臭さを感じたのです。

柴田の大いなるスランプの原因となった震災による「大損失の経験」は、その後に罫線の大権威を目指した柴田にとっては多くの他の相場師たちと同様に、本物の相場師になるためには避けては通れぬ通過儀礼でした。

柴田がこの時の巨額の負債を返済し終えたのは、昭和7年、31歳の時であったと言います。

この間、土木工事業、数件の料理屋の経営など、本人の弁によるとあまり人に誇れないような底辺の仕事を借金返済のためにやむなく行ったと言います。

当時の土木業などは荒くれ者や前科者などの働き口であったようで、それが業種として負い目であったと言う可能性はありますが、料理屋の方は小樽と言う土地柄を考えるとそれなりの接待をする女性などを置いていたのかも知れません。

一切の投資行動を封印して借金返済にいそしむ一方で、柴田は独自のテクニカル分析研究にはますます熱意がこもっていたようで、この負債完済後の数年間も実トレードよりは研究に集中していました。

未完の手法

この時の研究結果が形になったのは昭和9年、33歳の時でした。
この年、7年間をかけた研究の成果である「日柄観測法」が形になります。

長期のチャートを分析していると、同じようなチャートの位相が現れることが多々あります。
これは比較的短いサイクルで現れることもあれば、大きなサイクルで現れるものもあります。
上昇相場での位相、下落相場での位相、天井や底値圏での反転の位相などの共通項のようなものが見えるようになると、そうした類型の背後にある共通の事情を知りたい、研究したいと思うのが常です。

そして、突き詰めて研究してゆくとケースによってはそれが見えてくる場合もあります。

相当根気のいる作業になりますが、時間をかけて丁寧に相場や時代ごとの新聞記事を対照してゆくと「これは、こういうことだったのか!」とはたと納得できた気になることもあるものです。

その割り出した類型が面白いように目の前の相場に適用できることもありますが、わからないことや歯が立たないことも数多くあると言うのが現実です。

しかし、うまく相場予想に適合すると一つの原理を見つけた気になります。
実際にこうした研究をやったことのある人ならわかると思いますが、そのような「原理」も更に対象となるデータの範囲を広げてゆくと、いつしか適合しない例が次々に現れたり、見つけたつもりの類型例が実は自信を失うほどの希少例であったり、あるいは研究すればするほど原理と思われたものとイレギュラーな状態と思われるものが曖昧になってくるような状態で堂々巡りの迷路に迷い込んだりするものです。

しかし、個人的な経験に照らしてみると、柴田のような相場経験をもつ人物が7年間を一心に費やしたと言う、その研究に要したものの大きさを考えると、この方法は柴田の立場からは一定の法則性は示しているものと考えられますが、普遍瀬と言う意味ではその研究は果たせぬ夢であった可能性があります。

研究に要した7年間、柴田の想いが一つの方向を向き続けていたらしいことと、この研究で得られた結果が、その後の数十年の彼の人生において彼自身によっては大きく訂正されることがなかった点が重要だと思えます。
柴田の「日柄観測法」では相場の位相の類型を日柄、つまり一定の時間や期間に浮かぶ周期性に照らして、検証することで相場転換の出現サイクルの見出し方を説いています。

「日柄」とはカレンダーで定義された日々の周期性やそれに付帯した(昔の暦の)吉凶の定義のことです。
柴田は五曜、六曜などを始めとする日本古来のカレンダーを元に、相場で使われていた日柄と値動きと相場の相関性や周期の一致などに関する考えをすべて実際のデータに照らして検証してみたところ言われていたような結果は得られなかったとしています。

柴田の言う「科学的」とは、このような「客観的な過去の事例検証」のことでもあったのです。

「日柄観測法」と言う難題を自ら研究課題として選んだことは柴田罫線の陥った一つの蟻地獄の様な迷い道だったとも思えます。



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