普遍的 絶対的 相場の真理 手稿3題

科学的と言うことの意味

柴田の態度でもっとも気になるのは、その述べるところの「科学」が客観性の根拠を統計的なものにのみおいていると言う点です。

柴田自身は相場必勝の「普遍的な真理」の解明を目指して研究していると主張しているのですが、その研究は、実際には過去の罫線パターンの詳細な検証にとどまっており、それを「真理」と呼びながら、実はその論理の柱であるはずの「原理」「背景」については全く考察した形跡がないのです。

「なぜそのようなパターンが現れるのか」「なぜそれが現れたら、指南書で語られるような現象となるのか」と言ったことについては主観的な解説はあっても客観性ある組織的な検討や解説がないのです。

つまり、いくら統計的な検証があったとしても、「科学的」と言うからにはその統計的な結果に対して、先ずは仮説をたてて、その仮説の真偽を検証した客観的な証拠を示す必要がある…、と思われるのですが、そうしたものがないと言う事を見ると、柴田の言う「科学」とは、まさに時代を感じさせるものであると言う風にとらえておく必要があります。

これは柴田の相場観測がインチキであると言う意味ではなく、それはあくまでも柴田の解釈する「科学的」であって、本来の意味での「科学」と言う定義は適用できないと言っているだけです。

柴田の研究自体は紛れもなく真剣なものであるのですが、それが柴田以外の人の手に渡った時の、実用における「普遍性の担保」については疑問が残ると言う意味です。

その矛盾

柴田の屈折した「自己顕示」については先に触れましたが、柴田の主張には数々の矛盾点があります。

この矛盾には柴田が自身の偽善をごまかすためと言うような種類のものではなく、一定の信念を持って自身の考えを語ったところ、そこには自身が気づいていないような矛盾が内包されていたと言うような類のものです。

意地悪い見方ながら、例えば自身の開発した相場観測法を普遍的な絶対の真理と主張しながら、その版権や著作権を家族の生計ために残したと言う部分には迷いと矛盾があります。
普遍的に相場で利益を得られるような「絶対の真理」なら別に版権などなくとも、その「真理」を相場に適用することで家族は十分に生計を建てられるはずです。

柴田が語る自己の相場における武勇伝に基づけばそれは十分すぎる成果となって家族を養うはずなのです。
しかも、柴田の子息たちは柴田の相場研究や投資を助手としてサポートしていたとされますし、長子と思われる人物については初期から秘伝書の作成にかかわったとされています。

ただ、善意にとれば、これは変人柴田の自己顕示欲のなせる業かもしれません。

その意味では柴田の場合、懸賞金による挑戦者の募集と言う金の使い方で自己顕示欲を満たそうとし、その一連のストーリーの中に柴田罫線大全と言うものが存在したと言う可能性があります。
しかし、その後の著作権や版権について大きな矛盾もあります。
「子孫の生計のために残した」とその著書の中で自信たっぷりに公言したはずのその「著作権」が、現在は金銭による譲渡で他人の手にわたっているらしいのです。

つまり柴田罫線は家族すら十分に養うことが出来なかった可能性が高いのです。

このような現状と思われる情報に照らしてみると、やはり柴田の相場武勇伝は柴田の本能的な相場観に支えられていたもので、「柴田罫線」と言うロジックはその相場観を確認するために用いられた補強材料と言う見方が正しいのではないかと思えてしまうのです。

現在、柴田の後継者とされる人々が、伝説で柴田が築いたとされる財産と同等は言うに及ばず、その数分の一の財産をも持っていない模様からも柴田の武勇伝は、幼少期から穀物価格を肌で感じつつ、本能的にそれを培った柴田本人にしか達成できないものであった可能性が否定できないのです。
普遍的な必勝のロジックの解明などはスーパーコンピュータによるシミュレーションをもってしても難しいことと思われますが、仮にどこかの大金持ちが、長大な情報と巨大なコンピュータを使ってそれを見つけていたとしたら、それを一般公開すると言うのは大いなる愚挙とも考えられます。

実際、普遍的な真理とまでは行かなくても利益を安定的にうむカラクリなどが用いられていてもそれが他人に公開された試しはありません。

システム・トレードにおいてもっとも重要なことは、ロジックの有効性を信じて相場の変化に一喜一憂することなく、粛々とトレードできるだけの精神的な強靭さがあるかどうかという点です。
いくら優れたシステム・トレードでも、勝率が100%でない限り、必ず大きく負けることもあれば、負けがどんどんかさんでゆくことのあるものです。

個人的にはシステムを信じ切ることが出来るのは、一定の相場経験と相場観をもった開発者自身だけではないかと言う気がしています。

一度でもその「負け」に反応してスタイルを変えた時点で定義的には、システム・トレードはすでに破たんしていると言えます。

また、柴田の編み出したロジックが、柴田の主張するような形の絶対普遍のものであれば、その改良や解釈の変更と言うものは矛盾して思えます。

昔、大阪市内のとある真言宗宗派の総本山に当たるお寺の院主さんから「真言宗は理論的には完璧だ」と言った話を聞いたことがありますが、確かに空海真言宗には宗派はあっても、他宗ほどの新しい思想は生まれていません。

一方の天台大師から伝教大師に伝わった日本天台宗には「曹洞宗」「黄檗宗」「浄土宗」「浄土真宗」「日蓮宗」などの多くの鎌倉仏教と言われる新思想が生まれています。
これが院主さんの言われる両者の完成度の違いであるとすれば、完成度が高いほどバリエーションは生まれにくいとも考えられます。

さて、現在、柴田罫線に対するバリエーションの提案は幾つかあるようです。
これのバリエーションの存在がもともとの柴田のロジックに由来するものなのか、あるいはそれを解釈している後継者の未熟さに由来しているものなのか、いずれにしても柴田罫線の普遍性と言う主張には限界があることだけはこの一事である程度想像がつきます。

研究の限界

柴田罫線の一つの悲劇は、普遍的な絶対的真理と言うようなものが作れると感じた柴田の直観に由来するものです。

ロジックを理解することで完璧なトレードが出来ると言う理想に柴田がこだわりすぎたために、実は柴田の直観的な相場観を交えて使われたと思われるオリジナルの柴田罫線投資法には、人手に渡った際には、重要と思われる「相場観」と言う部分が欠落してしまう構造だったのではないかと考えられます。

この欠落は本能的な相場観が柴田の身には当たり前のように自然な形で(もともと)備わっていたため、柴田がそうした相場観自体が投資家普遍の自然な適性である考えていたためではないかと思われます。

幼いころから生活の一部、身体の一部として農業経営や穀物相場を介して相場観が自然に備わっていた柴田には、逆にその当たり前のものへの意識が薄かったのかもしれません。

柴田はそれを「農民の本能」と言っているのです。
柴田の考える「相場のメンタル」にはその「天性の相場観」は含まれず、もっぱら「迷いや葛藤」と言う部分だけがクローズアップされていたようにも思えます。

この相場観と言う「柴田にとって生まれながらの当たり前であって、一般投資家には非常に困難な素養」がないと、仮に柴田罫線が柴田の言うとおりの完璧な投資法であったとしても、そのシスティマティックな運用に必要な「ロジックを信じる」と言うメンタルが欠落するわけで、結果の得られない可能性が大きくなってしまいます。

柴田にはロジックとは別次元の「見立て」と言う、経験上信じるに足りる基準があったと思われるのです。

柴田は指導を乞う人にロジックを信じろと言う事は繰り返し言っていたようですし、ある意味これはシステム・トレードにとっては秘訣なのですが、一方でその機械式の(機械的に行う)投資法を信じるためのメンタルを如何にすれば身に付けられるかと言う肝心の部分の説明は無かったようです。

柴田自身にとって相場観は幼少期から体が当たり前に知っているものであるものの、その相場観には減衰やスランプがあるために、そこを補完したのが柴田罫線だったわけです。
柴田のような怪物と私自身はもちろん比較できませんが、誤解を恐れずににあえて言えば「相場の絶対的な真理」は柴田の方法では論理的に考えて見つかるわけがないと言うことです。
もう少し言えば、普遍的な真理を見つけるためには価格データだけではあまりにも研究サンプルとして不備だと言う事です。

柴田罫線にはテクニカルツールとして一定の価値はあります。
「絶対の真理」への疑問は彼の主張するような「普遍性」への疑問であって、テクニカル指標としての柴田罫線の価値を全否定したり批判したりするものではありません。

柴田が一念発起して相場の普遍的な真理を解明し、それを大全にまとめようとした時には柴田にはあふれるほどのアイディアがあったと思われますが、実際に検証を重ねてゆくうちに当初の自信たっぷりの楽観的な見通しを打ち砕く困難がいくつも待ち構えていたのではないかと思われます。

柴田は全集の編纂に於いていくつかの構成を予定していた編成から除いたり、一部が未完成であったにもかかわらず、完成を宣言したりしています。

このことからは、柴田自身が自分の方法に何らかの限界を感じつつ、その限界を周囲に悟られぬようにギブアップしていたことも想像されます。

またそれは晩年の柴田が、その研究に対してモティベーションを下げたと思われることの「謎」に対する答えであるようにも思えます。



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