細胞の寿命時計 テロメア、細胞分裂回数とテロメア、テロメラーゼ活性と抗癌研究
細菌などの単細胞生物のには細胞の分裂の限界つまり分れる寿命と言うものがなく、以前はこれが細胞分裂の正常な状態であって、人間などの細胞にある細胞分裂の回数に制限(寿命)があるらしい状態の方が謎とされていました。そこで生命の体内には細胞の寿命を司る時計があるはずで、何らかの方法でこの時計を操作できれば永遠の命と言うものへのアプローチになるのではないかと考えられていたのです。テロメアはそのような寿命時計の候補として発見された、細胞分裂の回数チケットのような働きをする染色体の一部分です。染色体には「線状」のものと「輪っか状」のものがあり、真核生物の染色体は「線状」であるため末端となる部分があります。テロメアとはその染色体の末端部分の構造で、特徴的なDNA配列と様々なタンパク質の構造です。「線状」の染色体はその末端が剥き出しの状態になると、その部分がDNA分解酵素などの驚異にさらされて正常な機能を果たせなくなってしまいます。そこで染色体は末端部分にテロメアのような「キャップ」をかぶせることで、その働きに安定性を持たせています。
細胞が分裂する時に染色体も分裂します。テロメアはヒトでは1万ほどの塩基対の長さがありますが、分裂の際に50~100塩基対ずつ短くなっていくことがわかっています。
正常な細胞分裂が行われるには5000程度かそれ以上の塩基対の長さのキャップが必要なのですが、分裂が繰り返されると、いずれテロメアで保護されているはずの染色体の末端が隣の染色体と融合してしまうなどの染色体異常を発生してしまいます。
細胞分裂回数とテロメアの減衰した長さには相関が認められており、異なる年齢の人から採取した細胞同士を比較してみると、年齢の増加とともにテロメアのDNA量は減少して、最後には5000塩基対に近い値でこれ以上細胞が分裂しないと言う限界を迎えます。テロメアが「細胞寿命時計」や「細胞分裂の回数券」に例えられるのはこのためです。細胞分裂ではまずDNAが複製されます。DNAの複製はプライマーという断片配列を足がかりに行われますが、これは生命活動の「かなめ」、遺伝情報の複製を担う酵素複合体であるDNAポリメラーゼがDNAを複製合成する役割をもつ短い核酸の断片です。DNAポリメラーゼはプライマーなしにはDNAを伸長することはできません。染色体の末端にはテロメアと呼ばれる繰り返しの塩基配列ががありヒトの場合では「TTAGGG」という配列が約1万塩基繰り返されていて細胞分裂によってこのテロメア配列が少しずつ失われて行くわけです。
環状のDNAを持つ細菌などは、この末端部分が存在しないので分裂寿命はありません。線状の染色体でもヒトの生殖細胞などは細胞分裂を繰り返してもこのテロメアが短くならず、長いままのテロメア配列を子孫に伝達することができます。これは、生殖細胞では「テロメラーゼ」というテロメアDNAを維持する酵素の働きがあるからです。ヒトのテロメラーゼは発生初期には活性を持ちますが、ある時期から生殖細胞など一部の細胞を除いて働きが抑えられることが観察されています。この細胞のテロメラーゼ活性は細胞のがん化とも密接な関係があります。正常な細胞では、テロメアがある限界を超えて短くなると、がん抑制遺伝子が働いて、細胞分裂がストップしますが、ほとんどのがん細胞ではテロメラーゼが活性化されていて、細胞は無限分裂寿命を獲得し、増殖が留まらなくなっていて、テロメアによる細胞の分裂の抑制が効かない状態になっています。20世紀終盤にがん研究と長寿の研究が背中合わせだと言われていたのはこのためです。現在も老化やがん化とテロメアの長さの関係や、そうした現象とテロメラーゼとの相関関係の研究は進められており、、テロメラーゼを標的とした抗がん剤の開発や、細胞にテロメラーゼ活性を与えて老化を防ぐ研究などが進められています。
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