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相場師の出てくる落語
 [ 住吉駕籠とらくだ ]
相場で大儲けした人、損した人など、落語には相場の人間模様を生きた登場人物が数多くいます。
住吉駕籠は二人の勝ち組の相場師が散在を終えての堂島への帰り道に興すエピソード、一方のらくだの主人公は相場で失敗して落ちぶれた負け組みの商家の主が紙くず屋(今で言えばリサイクル業者)をしていていろいろ大変なめに合うと言う話です。
日本の相場文化ともいえるものが如何に歴史的にも定着していたかと言うのがどちらの話にも共通したベースです。


住吉駕籠
上方落語の住吉駕籠は江戸落語の蜘蛛駕籠のもとになった話です。
大阪南部の堺方面に近い場所に住吉大社で有名な住吉と言うところがありますが、昔はたぶん今の国道26号に相当するようなあたりが住吉街道と言われて大阪堺を結ぶ動脈だったとおもわれます。
その頃の話です。
まずは、駕籠屋が茶屋の近くで客待ちをしているといろんな客にからかわれたり絡まれたり大変な目にあうところから始まります。
最初に駕籠屋をからかうのが近くの茶屋の親父で新人の駕籠かきが自分の顔を知らずに声を掛けてきたのをみて話にのってみせます。
家が近いから駕籠には乗ってもしゃあないといいつつも、客寄せに必死になっている新人の駕籠かきが「人助けにのっておくんなはれ」と何度も頼み込ので、人助けならしゃあないからのったろと、駕籠に乗り込みます。
行き先を聞かれて、「人助けやからどこなと好きなところにいかんかい」と答えますが、そういうわけには行かないので駕籠屋が「では、お宅いでも送らせてもらいまひょか」と伺うと、そら助かる、ほなら頼むわとなりますが、駕籠屋が家を尋ねるとと「そこに見えてる茶屋や」と答えるので、駕籠屋が「そんなあほらしい、あんな近いところまでいかれまっかいな」とあきれて言った言葉尻をとって茶屋の親父は「いく言うたんやから行かんかい」と大激怒。
そこに小用から帰ってきた親父と馴染みの相棒が親父に必死で詫びを入れてどうにかゴタゴタを収めたところに今度はサムライです。
これこれこう言うしつらえで・・と申し付けられて大掛かりなしつらえなので、あわてて他の同業者にも声をかけて段取りをしようとしてみたところ、良く良く聞くとそう言うしつらえのお姫様一行がこのあたりを通ったかどうじゃ・・と問い合わせているだけです。
慌てて手配をキャンセルして愚痴をいっていると、今度はえげつない酔っぱらい。
声をかけたらややこしいから・・と言ってる横からさっきの新人の駕籠かきが声を掛けてしまいます。
酔っぱらいは自分の住吉参りの話から始まってその帰りに寄った料理屋の料理の話、支払った代金の話を何度も何度もくどくどと繰り返します。
たじたじであしらいつつ苦戦をかさねてようやくどうにか酔っ払いをおいはらったところで、どこからともなく「おい駕籠屋」の声、よくよく声の方を見ると客はもう駕籠に乗っています。
駕籠賃の交渉になって行く先を聞くと客は堂島までと言います。
堂島と言えば相場の町。
「ひょっとして旦那はん直(ジキ-直接相場に参加する資格を持った相場師)でやすか?こらええお客にあたった。今日はろくなことがなかったからこれでマンが変わります」とばかりに駕籠屋が堂島ならなんとか一分は欲しいと言うところを、客はそこをなんとか二分で行ってくれと頼みます。
噛み合わない話ですが、値切られたわけではないので駕籠屋がいぶかしげに承諾すると、これで景気づけにいっぱいやって来いと気前良く小銭を渡されます。
駕籠屋は喜んでテンションもあがり、酒を引っ掛けにいくとその隙にもう一人、直の仲間の別の直が呼ばれて駕籠に乗り込みます。
昔の駕籠は一人乗りの乗り物、今のように何人もが一つの乗り物に乗ってぺちゃくちゃしゃべりながら道中を楽しむことなど出来ない時代です。
そこで直は駕籠屋を騙して二人のりで堂島までしゃべくりながら帰ろうと言う魂胆です。
駕籠屋が戻る前に垂れをおろして履物をなおして・・・、ひっそりとまっていると駕籠屋が帰ってきて出発の準備が済んでるので気の早い客だとばかりに急いで出ようとしますが、新人の方は妙に重い駕籠に四苦八苦。
酔いのせいだと得心してなんとか担いで進みだすと、駕籠の中からなにやら話し声がするので、どうもおかしいと一旦駕籠を下ろします。
「なんやらおかしいのでちょっと見さしてもらいまっせ」と垂れを上げてみたらやっぱり二人連れ、「どう言うことでっかいな、これは、かんにんしとくんなはれな」「さっきお前一分欲しい言うところを二分渡すいうたがな」「勘弁しとくなはれ、なんぼなんでも一人とおもてますがな」
そうしたやりとりがありつつも、気のいい駕籠屋、堂島に付いたら只では放っておかないからとにかく行けと言われてしぶしぶ再出発します。
駕籠の中では「もうばれたんやから、かまへんがな」とばかりに垂れも跳ね上げて話が盛り上がってきます。
やがて二人の直はもうすぐ始まる大阪相撲の話で盛り上がっています。
「あんたとはなんでも気ぃがあうけど、スモン(相撲)だけはあきまへんなあ、あんたは小そうて技の効くスモン取りがすきやけど、私はやっぱり大きなのが好きで・・」やがて二人がひいきの力士の話で盛り上がってくるとか駕籠の中で技の掛け合い。
ついに、駕籠の底が抜けてしまいます。
駕籠屋が「どないしてくれまんねんこれ」とあきれはてると、直は「心配せんかて、駕籠の一つや二ついつでもまとうたる、ええからこのままいけ」「いけゆうても底がぬけてまっせ、こんなもんどないしていけまんねん、どっちにしてもいっぺん降りとくんなはれな」と降りるように促すと、直はその降りろと言う言葉に激怒「わしらは相場では強気も強気で通った二人や、一旦乗ったものから死んでも降りられるかい、ごちゃごちゃいわんとええから、このままいかんかい、わしら中で走るやないかい」と譲りません。
「えらいもんやなあ、直は。中で走っても降りんの嫌やて。ほならこのまま行くか?」としかたなくそのまま走ってすすんでいるとそれを遠目に見ていた農家の子供が「おとうちゃん向こう行く駕籠、足が八本はえとるで」「おうほんに八本やなあ、覚えとけあれがほんまの蜘蛛駕籠いうもんや」
昔は柄の悪い駕籠屋を蜘蛛駕籠とよんでいたので、それに引っ掛けた下げと言うわけです。


らくだ
落ちぶれたもと島之内(大阪の大きな老舗の商家が立ち並んだ問屋街)の大手の紙問屋の旦那が、今は紙くず拾い(拾いとは言っても小口の買取業者です)。
いつもの長屋にくず買いに来ると、「クズ屋、クズ屋」の声がします。
よくみるとなじみの「らくだ」と言う名の侠客のうちから見慣れない男がよんでいます。
「ひょっとして違ごうてたらすんまへんけど、ここは確からくだはんのうちやったような・・」としりごみしていると、「そうやらくだの家や、ええから入って来い」と呼び込まれます。
男は弥猛(ヤタケタ-むちゃくちゃ-)の熊五郎と言うらくだの兄貴分の侠客で久しぶりに訪れるとらくだが河豚に当たって死んでたので兄弟分の葬式の真似事をしたいが、ここのところ博打が付かないので金もない、そこでお前に屋財家財を買ってもらってその金で簡単な葬式をあげたいといいます。
しかし、紙くずやはもはやこの家には買えるようなものは一切ないとなんとか説明して聞かせます。
すると熊五郎はしかたなく葬式の算段のための用事を紙くずやにいろいろと言いつけ始めるのです。
町内の月番から香典集めて来いに始まって、大家に酒と煮しめを持ってこさせろとなります。
月番に断られると町内に火をつけると言う言いつけを伝え、次に大家が断ると大家の家でシブト(死体)のカンカン能を踊らせるために死体を担がされたりで、さんざんに損な役回りの連発です。
ひと段落すると今度は早おけ(棺桶)がいると言うことで早おけの代わりに漬物樽を貰いに行かされます。
町内の衆も大家も漬物屋もらくだには金も貰わずにいつも無理難題ばかり押し付けられていたので、死んでくれて大助かりながら、皆、香典にも葬式にも付き合いたくはないので説得はどれもこれも一苦労、漬物屋も同じように嫌がるのですが、そこをどうにかこうにからくだ以上にタチの悪い熊五郎にこき使われていると泣き落としたりカンカン踊りの話をしたりで箍の外れかかった樽を一個貰い受けて帰ってくると、熊五郎の方は上機嫌で酒をやっています。
「お前の留守中にこうして町内の月番も大家もみんな香典やら酒やらを持ってきてくれた。おかしなもん持ってきやがったら叩き返したろと思うてやってみたらなかなかいけるがな。大家もシブトのカンカン踊りがよっぽど効いたみたいや、こらええ酒やがな。おまえもまあげんなおしにやっていけ」
そういわれてもこれから仕事があるからと紙くず屋がことわると、今度は熊五郎が自分の好意にケチを付けるのかと因縁をつけて脅しにかかって無理矢理呑ませるのです。
呑ませてみるとこれがなかなかの呑みっぷり。
面白がってどんどん呑まされて、いったん酔ってしまうと、紙くずやは人間が変わってしまって熊五郎もタジタジの酒癖の悪さです。
今度は熊五郎が、紙くずやから自分が大店の主から相場でしくじって落ちぶれるまでの話を延々と聞かされ、今回の経緯で一人で働いた自分が呑むのはわかるけど、お前みたいなもんが偉そうに呑むな・・とさんざん嫌味を言われ、熊五郎の生き方に説教され、叱られて、挙句シブトがこんなところにあったら気分が悪くて酒がまずいからと頭の毛をむしりとって(昔は死人の髪の毛を坊主頭にしたそうです)千日前の火屋に焼きに行こうとなります。
千日前と言えば今では大阪の歓楽街ミナミに繋がる日夜を問わない繁華歓楽街ですが、昔は刑場や焼き場があった寂しい場所で、昭和の頃の千日デパートの火事などもたたりだと噂されたという土地柄です。
大声で「葬連や葬連や」と叫びながら樽を運んでいると近くの丁稚に笑われます。
熊五郎が大声を出すのを恥ずかしがっていると、紙くずやのほうはおかまいなしに小僧のいるうちに入っていって、因縁をつけて金をゆすり、またその金で呑む。
もうべろんべろんの二人がやっと火屋に付くと、今度は漬物樽の中にらくだのシブトがいません。
酔っ払ってどこかで落としたのです。
放ってもおけないので、死体を捜さそう・・と言うことになり探していると見つけたのは、こちらもべろべろに酔っ払って寝ている乞食坊主。
「なんやこのがき、こんなところに落ちてけつかる」とそれをらくだと思い込んで火屋に運び入れておん坊(焼き場の使役)に焼いといてくれと言い残して金を渡して去ります。
やがておん坊が乞食坊主を焼こうとすると、「熱い熱い、ここはどこやねん、ええ?、これはどないなっとんや」とグダを巻きだします。
一方のおん坊も、遺族からの心づけの酒でもはや思いっきり酔っ払っているので死体からの問いかけにもかかわらず、「はあ?火屋やがな火屋やがな」と平気で答えています。
すると熱い熱いと言っていた乞食坊主が「おお、そらあありがたい、ほんなら冷(ヒヤ)でいっぱいもらおか・・」



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